小説

五郎おじいちゃんのそうしき

※小説カテゴリーです。




「早くそこにおいている服にきがえなさい」

お母さんは、そう言って、てきぱき動いていたんだ。

さっきから、紙にいろいろ書いたり、あちこちに電話したり、押入れのおくでごそごそしていたな。

なんだか、とても忙しそうに見えたよ。

お父さんは、いつもよりぼんやりして、台所の椅子に座っていたんだ。

ぼくは、お父さんが少し心配だったんだよ。

だって、五郎おじいちゃんは、お父さんのお父さんだから、五郎おじいちゃんが死んだことはお父さんにしてみたら、すごくショックなことなんじゃないか、って思うんだ。

ぼくだって、お父さんが死んじゃったらすごくショックだと思うしさ。

だから、お母さんがいつもより元気そうに動き回っているのが、ふしぎなんだよね。

お母さんは、五郎おじいちゃんが死んじゃったのが、ショックじゃないのかな。

これでも、ぼくも、少しはショックだったんだよ。

五郎おじいちゃんはうんと遠くに住んでいるから、たまにしか会えなかったけど、川や山につれて行ってくれたし、「けいたはいい子だ」ってたくさん言ってくれたんだ。

「いい子だ」って言われるとはずかしかったけど、でもうれしかったな。

友達には、そんな話するとばかにされそうだから、こころの中にしまっておいたけどね。

ぼくは、お母さんから言われた服にきがえながら、そんなことを考えたんだ。

それにしても、この服、まっ黒で変なの。

なんだか動きにくいしね。

だからさ、ぼくはお母さんに、

「お母さん、今日はこの服きなきゃいけないの」

と聞いてみたんだ。

お母さんは、

「けいた、あんたも3年生になるんだから、わがまま言わないの。今日は忙しいんだから、困らせないで」

とだけ言って、また押入れのほうに行って何かをさがし始めたみたい。

ぼくは、五郎おじいちゃんが死ぬとどうしてお母さんが忙しいのかぜんぜん分からなかった。

でもね、こういう感じのときのお母さんにはさからわないほうがいいんだ。

動きにくいし、黒ばっかりでかっこ悪いけど、しかたないよね。





五郎おじいちゃんの「そうしき」は、広い広いところでひらかれたんだ。

いとこのめいちゃんも来てたけど、話ができるかんじじゃなかったな。

なんとなくだけどね。

そうしきが始まると、みんなとっても静かにしてたから、ぼくもじっとしてたんだ。

よこに座っているお父さんは、泣いているように見えたよ。

でも、見えたってだけで本当のところは、どうなのか分からないけど。

ぼくは、このままじっとしていればいいのかと、思ってたんだ。

でも、とちゅうでお父さんやおじさんが立ち上がって、こなを手に持って、よこの入れものにいどうさせてるんだよね。

大人たちだけがやるのかと思ったのに、めいちゃんもやっていたから、ぼくもあれをやるみたい。

しんと静まったところで、こういうことやるの苦手なんだよな。

うん、まあ、ちゃんとやるけどね。

そのとき、しんぞうがバクバクいっていたのはおぼえてるよ。

ぼくは、そうしきってみんなが泣くものだと思ったんだけど、今日のそうしきはちがうみたい。

お父さんとおじさんしか泣いてないんだもの。

他の人は、くらい顔をしてたかな。

でも、そうしきが終わったら、くらい顔じゃなくて、えがおになっていたのは、ふしぎだったな。





五郎おじいちゃんのそうしきが終わったら、大人たちはお酒をのみ始めたんだ。

ぼくは、大人たちがお酒をのんでるのを見るのがきらいなんだ。

だって、すごく顔を赤くしたり、大きな声で笑いだしたり、いつもとちがう感じになっちゃうもん。

ちょっと、こわいよ。

でも、このときの大人たちのお酒は、いつもより、ずっと、いやだったな。

だってさ、五郎おじいちゃんは、もう死んじゃったんだよ。

ぼくも少しはかなしい気持ちなのにさ。

大人たちは、お酒をのんで、わいわい、がやがやしてて、おかしいよね。

だから、ぼくは、めいちゃんに

「お酒なんてのんじゃっていやだよね」

って言ったんだ。

めいちゃんは、

「うん、おじいちゃんはいなくなっちゃったのにね。おじいちゃんがいなくなったのがうれしいのかな」

って言ったんだよね。

ぼくは、ドキッとしたな。

大人たちは、おじいちゃんが死んでうれしいって、本当ならこわいもん。





お酒をのむのも終わって、お父さんとお母さんとタクシーでうちにかえったんだ。

タクシーの中では、お母さんは、つかれた、つかれたと何回も言ってたよ。

お父さんは、お酒をのんでたから、赤い顔をしてた。

でも、よく見るといつものお父さんじゃなかったんだ。

どうちがうのか、ぼくには分からないんだけどさ。

だから、ぼくは、どうしたらいいのかぜんぜん分からなくなったんだよね。

そのとき、お父さんは言ったんだ。

「やっと、終わったな」って。

そして、お父さんは、少しだけ、ほんの少しだけわらったんだ。

でも、やっぱりかなしそうだったな。

ぼくは、お父さんのことばを聞いて、五郎おじいちゃんはもういなくなったんだな、って思ったよ。






五郎おじいちゃんのそうしき (完)





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コンクリートの隙間から(エピローグ)

※ 小説カテゴリーです。コンクリートの隙間からの続編です。

「コンクリートの隙間から(5月12日)」を読んでいない方は、そちらを先に読んでくださいね。


Sirohana2










<花>

ねえ、僕たち、いつの間にか少し痩せたみたいだよ。

あれ、本当だね。

この前までは、雨から水を分けてもらったら、元気になっていたのにね。

そうだよね。

さっきまで、雨が振っていたはずだよ。

それなのに、どういうわけか元気が出ないね。

おかしいな。

根っこや葉っぱに、力が入らないや。

花も前みたいに、思いっきり花びらを広げられないよ。




そうそう、向こうに咲いていた僕たちの仲間は、いなくなったみたいだよ。

そうなんだ。

じゃあ、僕たちもいなくなってしまうのかな。

うん、そうかもしれないね。




あ、この前来てくれた人が、また来てくれたよ。

また、じっと僕たちを見ているよ。

僕たちと友達になりたいのかな。

でも、ごめんね。

僕たち、もう少しでいなくなっちゃうみたいなんだ。

あれ、この人、少し微笑んでいるみたい。

僕たちがいなくなるのが嬉しいのかな。

なんで微笑んでいるんだろう。

葉っぱに触ってくれているみたいだけど、ほとんど何も感じられないよ。

いなくなるってどういうことなんだろうね。

この人は分かっているのかな。

もし、知っているなら教えてほしいな。






<私>

私は、二階の部屋の窓から、空を眺めた。

昨日まで降っていた雨が嘘のように、空は晴れわたっていた。

空はただ水色で、どこにも行かずにそこにじっと留まっていた。

私は、視線を机の上のポトスに移す。

瑞々しささえ感じられるほどの緑色。

葉は、茎は、上に、横に生命のおもむくままに成長していた。




私は玄関先に咲いている白い花のことを思い出さないわけにはいかなかった。

このポトスとは対照的に、弱りきっている白い花のことを。

いや、今となっては白い花ですらない。

黄色くくすんだ花になっている。

その花を見ることを、私はここ数日、避けていた。

玄関を通過するときですら、見ないようにしていた。

一つの命が終わっていく姿は、ただ悲しいから。




でも、目の前のポトスが、その花を、見てくることを私に訴えかけているにように感じた。

「あなたは、見て来るべきなんだ」と。

そう感じたから、私は玄関に向かった。

向かわないわけにはいかなかった。

玄関先に咲く花を、じっと、眺めてみる。

やはり、相当弱りきっている。

私は、予想していた通りに悲しい気持ちになる。




しばらく、眺めていると、私はこの小さな生命が消える瞬間まで、この場にいたいと思った。

生命は時間が来れば、風船が破裂するみたいに、一瞬でなくなってしまう。

その瞬間を、この目で見たい。

そもそも、私は、なぜ、こんな玄関先に咲いた小さな花のことを気にしているんだろう。

私は、私が分からなくなる。

花が私に、語りかけてきた。

正確には、語りかけてきたような気がした。




「もうしばらくしたら、僕たちはいなくなるんだ。それは避けられないことなんだ」

花たちの決意のように聞こえる。

私は花に、語りかける。

「私もそうなのかな」

「もちろん」

「君たちはそれで、悲しくないの」

「悲しくないよ。だって、僕たちの子供たちは、きっとどこかでまた白い花を咲かせるからね」

「そうなんだ。でも、君たちはいなくなってしまうんだよ」

「・・・その通りだね。いなくなるよ。でも、繰り返すようだけど、これは避けられないことなんだよ。あなただって、そうなんだよ」

「うん」

「あなたは、自分自身がいなくなることが悲しいの?」

「どうかな。分からない」

「自分がいなくなることを受け入れてみて。そして、いなくなるその日まで生きればそれでいいんだ」

「そうかもしれないね」

私は、心の奥に暖かいものを感じる。

体のおもりがすっと消える感覚を持てた。

もしかしたら、少しだけ、笑顔になっていたのかも知れない。

今にも、ばらばらになってしまいそうな葉を触ってみる。

まだ、今は、生きている。

明日は生きているだろうか。

それは、分からない。

私にも、この小さな花にも。







コンクリートの隙間から (完)




以上です。

エピローグのくせに、前回より長いですね~。

まあ、いいでしょ。

本当は、前回の「コンクリートの隙間から」で、完了したつもりだったんですが、続きがどうしても書きたくなったの書きました。

もう、今度こそ続きはないと思います。

実は、「現在のうつ病生活」カテゴリーよりも、「小説」カテゴリーの方が書いた後、すっきりするんですよ。

なんででしょうね。

理由は分かりませんが、ともかくまた何か書くと思います。






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コンクリートの隙間から


※ 小説カテゴリーです。うつ病とは関係ありません。




Sirohana












<花>

ねえ、僕たちはどうして、土じゃなくて、コンクリートの隙間から生まれてきたのかな。

僕たちの仲間は、みんな土に根を下ろしてのびのびしてるのに。

僕たちもあっちのほうに咲いている仲間のところに行きたいな。

だってさ、こんな隙間じゃ、閉じ込められているみたいで、少し窮屈なんだもの。



あ、誰かが僕たちのことを見ているよ。

どうして、あっちのほうに咲いている仲間たちじゃなくて、僕たちを見るんだろう。

それに、この人、何だか悲しそうな顔をしてるな。

何か辛いことでもあったのかな。



うん?

この人、僕たちに触ってくるよ。

なぜだろうね。

少しくすぐったいけど、でも優しい感じがするよ。



あれ、どこかに去って行くみたい。

僕たちはここから動くことができないから、あの人がちょっとだけうらやましいな。

僕たちは動けないし、風がふいたらゆらゆら揺れるだけ。

でもね、太陽を浴びられて、雨が僕たちに水を分けてくれるから、僕たちはそれで十分なんだ。

時々、虫たちが僕たちのところに遊びにも来てくれるしね。

あの人、また来てくれるといいな。



<私>

私は、久しぶりに実家に帰ってきたときに、その花を見つけた。

玄関先のポストの下にひっそりと生きているその花を。

庭を見ると、同じ種類の花が咲いている。

種が飛ばされて、こんな狭いところで、育ったんだろう。



花の名前は分からない。

でも、そんなことは関係ない。

全く関係ない。

ただ、花が、こんなにも細くて弱そうな花が、力強く育っていることに心を揺さぶられた。

今の私とは対照的だ。

私は、ただ息をして、ただ動くだけの存在だ。



私は、名前も知らない花に触れてみた。

少し力を加えすぎると、折れてしまいそうだ。

でも、花は何も言わないし、何も感じていないみたいに見える。

私は花を触っていると、不思議な気持ちになった。

花の生きる意志、太陽の光を精一杯浴びようとする心を感じとった。

そして、植物が呼吸している音を聞いた。



この花は、いつからここに咲いて、いつまで生き続けられるのだろう。

そんなことを考え、私は花から離れて、部屋に戻った。







以上です。

あまり、うつ病と関係なくてゴメンナサイ。

でも、こういうのを書くのが大好きなので、良かったらこれからもお付き合いくださいね。





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